2012年1月12日
巡礼者たち
ロードムービーの登場人物というのはたいていにおいて、ひょんなことから旅に出ているようだ。銀行強盗で逃亡のためだったり(俺達に明日はない)、小さな娘をミスコン会場に連れて行くためだったり(リトルミスサンシャイン)、会ったばかりの見知らぬ女が子供を置き去りにして消えてしまったからだったり(都会のアリス)、トランスジェンダーで元男性だった女性が、男だった頃に生まれていた実の息子を保釈することになったためだったり(トランスアメリカ)、蒸発していた男が昔逃げた女房を探しに出るためだったり(パリ、テキサス)、たまたま預かった少年をしぶしぶ世話するはめになった中年女が、臓器売買の餌食にされそうなその少年を連れて逃げるはめになったためだったり(セントラル・ステーション)。考えてみればロードムービーが”旅行”であるケースはまれというか、ほとんどないような気がする。
エミリオ・エステベスが監督したThe Wayはまさに予期せずして始まった旅の物語だ。きっかけは家族の死、旅の方法は徒歩、目的地はキリスト教の三大巡礼地のひとつ。
サンティアゴ・デ・コンポステーラを巡礼中に命を落としてしまった息子ダニエル(エステベス)の遺体を引き取るため、フランスはピレネーを訪れた父親トム(マーティン・シーン)。遺体確認をし、ダニエルが遺したバックパックを受け取りホテルの部屋に一人きりで座るトムは深い悲しみに打ちひしがれる。彼の目に浮かぶのは生前ぶつかることの多かった息子とのやりとりばかり。ふとバックパックを背負ってみると、その予想外の重さによろめいてしまう。輝かしい学歴と目の前に広がるキャリアを捨てて世界を旅することを選び、医者である自分と最後まで意見を違えたまま逝ってしまった息子。彼はなにゆえこの地にきたのか?なぜそんな生き方を選んだのか?息子を理解したいという 父の思いか、わかってやれなかったせめてもの償いか、トムは自らサンティアゴ・デ・コンポステーラまで歩くことを心に決める。遺灰の入ったブリキ缶をダニエルのバックパックにくくり付け、彼は息子の魂と自分だけの孤独な旅へと出発する。頑なにまわりとの交流を避け続け自分のことは一切話したがらない60をとうに過ぎたアメリカ人の姿は3人の年齢も国も違う旅人たちの興味をそそり、彼等をひきつける。そんな彼等を疎ましく感じ遠ざけようとするトムだが、不本意ながらも彼等と行動を共にするようになり次第に心を開いてゆく。様々なすったんだの 末に巡礼地に辿り着いた彼に見えたもの、彼が得たものとは・・・?
トムの旅の道連れとなるのはデンマーク、カナダ、アイルランドと国も違えば年齢も生き方も違う男女。旅の理由だって減量、禁煙、物書きのスランプ解消とさまざま。だけどそれだけではない本当の理由も次第にあらわになってくる。
旅の目的というのはきっかけではあるけれど、その道中に彼らが経験しているのは日常から離れて初めて見えてくる何かのようだ。それが何なのかはきっと家族も友人も伴わずにカミノ・デ・サンティアーゴを800km歩いてみないとわからない。そしてそれは旅人の数だけあるのではないかと思う。
2010年 アメリカ・スペイン合作
原作: The Way
監督:エミリオ・エステベス
主演:マーティン・シーン
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